先に出ました「ポジションペーパー」や想定問答集などの原案を作成する過程で、顧問弁護士など法務の専門家からの「法的視点」からの検討(これをリーガルチェックといいます)を受けましょう。ニュースリリースや記者会見でのささいな一言で、会社全体や役員個人への法的責任が追及される事態に発展することも考えられるからです。
昨今の緊急および謝罪記者会見でもよく聞かれる「社内管理体制が不十分だった」という言葉。この一言はマスコミにはおいしいエサとなります。「甘かった社内チェック」という見出しとともに「社内管理を甘く見て消費者への法令順守を甘く見ていた」という内容の厳しい報道がなされています。一社だけではなく、複数社でこのような追及はやがて「経営責任」「株主代表訴訟」といった経緯をたどる場合もあるでしょう。そのために有能なリーダーを失う損失は企業にとっても、社会にとっても計り知れないものとなります。
このようなエピソードには法的な問題が関わっているのです。それは取締役の「リスク管理責任」です。取締役は、会社、株主に対して「善良な管理者の注意義務」を負っています。リスク管理義務(2006年施行「会社法」)は、「業務の適正を確保する体制」の一つとして「損失の危険の管理に対する体制」という表現で明記されています。つまり、取締役は、リスクを予測し会社が不測の損害を被らないように体制を整える義務がある、といっているのです。ですから、発表する内容は、「常務会での十分な検討とともに決定し、その後の経過も担当者から状況を聞いて把握に努めていました。しかし、このようなリスク管理にもかかわらず、経済状況の変化にともない損失がでました。」といった発言となれば、リスク管理を行っていたことが伝わるでしょう。
また、会社法上の概念では「ビジネス・ジャッジメント・ルール」-すなわち経営判断の原理という考え方が定着しています。これは、取締役が決定した判断を事後的に裁判所が審査するときに、取締役を法的に守るための原則で、経営上の判断をする際に、「データを集め十分な調査」を行い、その結果をもとにして十分な討議を行うための会議を開き、「合理的な検討過程」を経ているならば、結果的に会社に損害が発生しても取締役は損害賠償責任を負わないという概念です。したがって、経営判断に関連する発表についてもリーガルチェックが必要となります。
また、従来製品の改良を発表する際には、注意が必要です。「ボタン部分を大きくしました」とだけ発表すると、「これまでのボタンでは小さすぎて壊れやすかったり、耐久性に問題があったりするのでは」と考えることもできます。ですから、改良という言葉の意味をふまえながら「従来品に問題点があったわけではないが、ボタンを大きくすることが、より簡単に小さな力で、操作することができるようになった」という姿勢で臨みましょう。
製造物責任(PL)をめぐる裁判で「和解」が行われるときには、細心の注意をはらって広報を行わなければなりません。なぜならば、「和解」とだけ発表してしまうと、「欠陥を認めて、そのうえで和解に応じた」と受け取られてしまいます。
このようなことを考えると、PL法の裁判で和解を行う場合は、消費者への影響を考えて「欠陥商品ではない」ということを、明確に説明します。そしてさらに原告の心情を推し量ったうえで、このまま裁判を継続するのははばかられるために和解の路を選んだ、といった姿勢を打ち出しましょう。以上のように、公式コメントには法的な問題が大きく横たわっています。コメントの原案を作成する場合には、専門的な法律家からのアドバイスを受けましょう。